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雑記帳.WEB

雑多なことを雑然と。

アフロディーテはナルキッソスに微笑むか

クソ嘘つきな男の話。

 

 

act.1  道端の椅子 

 

幕が上がる。舞台中央に派手な椅子。椅子の下には片手鍋が置いてある。そこに、とてつもないイケメンが座っている。ふんぞり返って、長い足を見せつけるように足を組む。「キャー」と数人の女の黄色い声。イケメン、不敵な笑みを浮かべる。再び「キャー」。鳴り止まない「キャー」。イケメン雪村、軽くため息。

 

雪村「おいおい、オレは見世物じゃないぜ?」

 

三度目の「キャー」。

 

雪村(何かを受け取るしぐさをして)「え?何?オレにくれるの?何だろう…。あ!!コレ、前にオレが欲しいって言ってた時計!本当にくれるの?お代は…、え?いらないの?悪いって…。…そう?じゃあ、お言葉に甘えて…。今度旅行に行くときに着けていくよ。ありがとうサチ子ちゃん」

 

雪村、女性の手を取り、手の甲にキスをするジェスチャー。黄色い声。

 

雪村(別の方を見て)「何、カオリちゃん?え、コレ何?あ!!かっこいいジャケット!何これ、本革じゃん!本革の革ジャンじゃん!すっごいね、高かったでしょ?35万?いやいや大金だって、今お金を…。え?いらない?あ、そう、でも悪いし…、え?う~ん、そこまで言うならお言葉に甘えようかな。うん、今度サハラ砂漠に行ったらコレ着るよ。砂はじきそうだから。ありがとうカオリちゃん、愛してる」

 

雪村、ウィンクする。「キャー」。キャーキャーうるさい。

 

雪村(正面を向いて)「え、サツキさん、何この高そうな鍵…。え?!葉山の一等地に建てた別荘のカギ?!いやいやいや、さすがに受け取れないって!え?暖炉がついてる?雪村君の好きなロッキングチェアも置いてあるって?…でもコレはさすがに高価すぎてさすがのオレも…。え?いや、そんなことないって!サツキさん、まだまだ長生きするでしょ!分かりましたよ、じゃあ今度江ノ島でサーフィンする時は2人でこの家でワインでも飲みましょう。ありがとうサツキさん」

 

雪村、女性の頭をなでる仕草。「キャオーー!!」と絶叫。

 

雪村「ははは。え?何?雪村君ずいぶん日焼けしてるねって?そうなんだよ、この前ブラジルの砂丘に行ってさ。知ってる?レンソイス・マラニャンセス国立公園。真っ白い砂丘がどこまでも続いていて、その合間合間にグリーンの湖が煌めいているんだ。晴れの日なんかサイコーだぜ?青い空、白い砂丘、緑の湖…。この世の楽園と言っても過言じゃないね!アダムとイブが住んでいたのはレンソイス・マラニャンセス国立公園なんじゃないかと思ったよ。いや、本当に綺麗でさ。あまりに気持ちがよくて上半身裸でレンソイス・マラニャンセス国立公園を闊歩してたんだけど、そしたらやっぱり焼けたよね。そりゃそうだよ、カンカン照りのお日様が真っ白な砂丘に反射してんだから。上と下とで紫外線の挟み撃ちよ。天然の日サロだね。いやぁ、でもあんなに素敵なレンソイス・マラニャンセス国立公園、略してレンマに行けたのは皆のおかげだよ。皆の援助なしではとてもじゃないけど行けなかったよ?だって地球の裏側だぜ?でさ、レンマでオレ、写真いっぱい撮ったんだ。たくさん焼き増ししたんだけど、いる?本当に綺麗なんだよ、レンマ!あ、サツキさん買うの?買う?いや、お金なんかいらないよ。え?雪村君の旅の思い出をタダで貰うなんてとんでもないって?そこまで言うなら…じゃあ1枚100…300えんね。あ、君も?君も!おいおい、そんなに焦らなくても写真はたくさんあるって!ハハハ…」

 

雪村、受け取ったお金は鍋に入れていく。雪村、女にもみくちゃにされているジェスチャー

 

リカ子「ちょっとちょっとちょっとーーーー!!!」

 

袖からリカ子がダッシュで登場。雪村の前に立ち、周囲の女を振り払うジェスチャー

 

雪村(落ち着き払って)「何してんのリカ子」

リカ子「やめてやめて、ユッキー先輩は私のなんだから!アンタたちなんかに渡さないんだから!私のほうが若くて綺麗なんだから!ユッキー先輩は私のなんだからね!!」

 

雪村、立ち上がる。

 

雪村「リカ子、オレは君のものじゃない」

リカ子「ううん、リカ子のものだもん!」

雪村「ううん、リカ子のものじゃない」

リカ子(しゅんとして)「じゃあユッキー先輩はこの人たちのものなの?」

雪村「そうじゃない。いいか、リカ子?オレは君のものじゃない。もちろんサチ子ちゃんやカオリちゃん、サツキさん、その他大勢のみなさん個人のものじゃない。オレは誰か一人の所有物にはならないよ」

リカ子「でも私はユッキー先輩を独り占めしたいんです!」

雪村「それはできないな」

リカ子「なんで?!」

雪村「だって俺は皆のものだから。公共の施設的な?」

リカ子「つまり先輩は市役所…?」

雪村「そうさ、オレは市役所…いや、もっと大きいものだ。もっと世界中の人々から愛されているもの…。そう!空気!オレは空気!空気が嫌いな人なんていないだろ?」

リカ子(残念そうな顔をして)「先輩、本当に空気でいいの…?」

雪村「いや、もっと壮大かな…。地球?アース?とにかくオレは誰かのものにはならない。それでいて皆のものでもある。だからゴメンね、リカ子。皆も。さ、今日はこのくらいにしよう。解散!また明日遊ぼうね!バイバイ!あ、サツキさん、オレのブロマイド忘れてるよ!だめだよ大事なもの忘れちゃ」

リカ子「先輩」

雪村(リカ子を押して)「ほら、リカ子も帰った帰った!」

リカ子(抵抗する)「いやぁん、私5分も一緒にいないのに」

雪村(リカ子を袖に追いやる)「明日はもっとゆっくり会えるよ。またね」

リカ子(袖にはけながら)「え~、約束ですよぉ!」

雪村「うん約束!じゃね!」

 

リカ子退場。雪村、一息つきながら中央に戻ってくる。逆方向から男(安田)登場。中央の椅子を見つけて怪訝な表情。雪村、男に気付く。

 

雪村「お、やっすん!」

安田(椅子を指して)「…何、この椅子?」

雪村「いい椅子だろ?マサヨさんに貰ったんだ」

安田「なんでこんな道の真ん中に置いてんの」

雪村「いや、せっかくのかっこいい椅子だから町の皆さんにも見てもらおうと思って」(椅子に座って足を組む)「どう?かっこよくない?」

安田(頷きながら)「はいはい」

雪村「いや~、本当にいい椅子なんだぜ、これ。イタリア製でさ、座り心地抜群!バッチグー!フッカフカだよ、フッカフカ。それでいて座った者、つまりオレを格好良く見せてくれる」(椅子に頬ずりしながら)「あぁ~、かわいいやつだなマサヨさんの椅子~」

安田「そんなにいいならオレにも座らせてくれよ」

雪村「おう、いいぜ」

 

雪村、立ち上がり、安田を椅子に誘導する。安田、椅子に座る。これ見よがしに足を組む。雪村の方を見る。

 

雪村「うん、いいんじゃない?オレよりは良くないけど」

安田「うるせーよ」

 

安田、立ち上がる。と、椅子に挟まったブロマイドを見つける。

 

安田「ん?何これ?」

雪村「あぁ。オレの写真。かっこいいだろ?」

安田(まじまじと写真を見て)「…何だよこれ、合成じゃねーか」

雪村「あ、バレた」

安田「日の当たり方が逆だもん」

雪村「さっすがパソコンオタク。よく見抜いたな。サイコ野郎だぜ」

安田「誰がサイコ野郎だよ!つーかなんで合成?何この写真?」

雪村「綺麗でしょ、レイソ…何だっけ…レイソン…レイトン教授国立公園。ブラジルにある砂丘だよ。オレ、砂丘って大好き!オレの美しさがよく映える」

安田「ここが綺麗なのは認める。でも合成する意味が分からんって言ってんだよ」

雪村「だから俺がここにいたら何か素敵じゃん?美しい砂丘に美しい雪村君がいる、そんな素敵な風景を写真に残したい…。そんな気持ちわかるでしょ?」

安田「で、実際は行かずに合成写真で誤魔化したと」

雪村「誤魔化すって言うなよ。仕方ないだろ、ブラジルは遠いんだから」

安田「でも行ったふりして日焼けした理由まで嘘ついてこの写真売ってただろ?」

雪村「何だ、見てたのか」

安田「何でそういう嘘つくの?」

 

雪村、不敵に笑って、数歩前に出る。くるりと安田の方を向く。

 

雪村「皆が望んでいる雪村になるためさ」

安田「皆が望んでいる雪村?」

雪村「そう!見ろよ、やっすん?今やっすんの前に立つこの美青年を!言っちゃ悪いけど俺は俺より美しい人間を見たことがない!街を歩けば皆が振り向く。スカウトマンはごまんと集まり、女性からは逆ナンの嵐。オレが笑えば花もほころび、たちまち世界から砂漠はなくなるだろう」

安田「お前の好きな砂丘もなくなっちゃうじゃん」

雪村「砂丘と砂漠は違うの!」(冷静になって)「まぁ、そういうことでオレにのぼせている皆に夢を見させてあげたいんだ。美しいオレは美しい砂丘で美しく日焼けをし、一枚の絵画のような美しすぎる写真をパシャリ!…疑う余地もないほど美しいだろ?」

安田「すごく疑わしいよオレから見たら」

雪村(無視して)「この美しい1枚を見た女性たちはこう思うだろう。あぁ、何て美しいの。美の化身だわ。何この雪村って人、美の女神アフロディーテの息子かよ信じらんねぇ美しさだわ…と。誰もオレがタコさん公園の滑り台で3時間寝転んで日焼けしたとは思わないんだよ」

安田「タコさん公園で焼いたの?!すげぇなお前、あんなホームレスの巣窟で…」(引く)

雪村「あそこなら絶対女性には見つからないからな!」

安田「うわ~、策士…。意外と努力家…」

雪村「やっすんもその写真欲しい?1枚300円だよ」

安田「いらねーよ、そんな嘘で塗り固められた写真!オレまで嘘つきになりそうだ」

雪村「人聞き悪いな。オレは嘘つきじゃない。夢の配達人なだけだよ。でもって美の化身」

安田「もう嫌だよ、お前と話すの…。疲れる」

雪村「じゃあそろそろ帰るか。やっすんそっち側持って。結構重いんだよコレ」(椅子の片側を持ち上げる)

安田「何でオレが手伝わないといけないんだよ!一人で持って帰れよ!つーかどうやって持って来たの?!」

雪村「小さいことは気にすんな!」

安田「もう~」(しぶしぶ椅子のもう片側を持つ)

2人、椅子を持って袖へ。暗転。

 

 

続くといいな。